患者の気持ち・精神状態を考える。

 作業療法は身体面の治療も大切ですが、精神的なケアがより重要になってきます。仮に体を治しても、その患者の役割を回復できず、その後の生きていく目標・気力がなければ再び心身が衰え、引きこもりや寝たきり・病院に逆戻りとなるからです。むしろ、リハビリ自体も前に進まないでしょう。「もう死にたい」という主訴を持った患者の足を治したら「その足で飛び降り自殺するだろう」と、授業で言われたのはショックでしたが、すぐに納得しました。なぜなら、自分自身が重度の障害を負った場合は「もう生きていても仕方ない」的な思考になりやすいタイプの人間であり、また仕事上、実際にそういう精神状態の人と関わったことがあるからです。
 「歩けなくなったからといって、人間としての価値が下がるわけではない。」という言葉に感銘を受けたことがありますが、重度の障害を負った場合や急性期の患者はなかなかそうとは思えない精神状態になると思います。人はみな性格が違いますが、まじめで完璧主義的な性格の人ほど鬱になりやすい傾向が認められており、機能的に衰えた自己に激しく落胆するでしょう。むしろ、障害を負った時、落胆しない人間はいないのではないでしょうか。人の手を借りなければ生活できない状態になった時、落胆するのはごく自然な反応とも言えるはずです。

 私たち、リハビリ関係の医療人が関わるのはこのような心身に激しいダメージを負った人なのだというのを常に頭に入れておきましょう。そうすれば、自然と親身で優しく、温和な対応をしなければいけないとわかりますし、少なくとも雑な対応はしてはいけないと意識できます。しかし、仕事中だけ急に優しくなるのは難しい上に不自然さが出やすいので、日ごろから相手の立場・気持ちを考えた行動を心掛け、温和な対応の仕方や気配りの能力を身につけるようにすると良いでしょう。